腸は、「第一の脳」
東洋医学の「心身一如」は、腸と脳の成り立ちから証明できる。
「心と身体は一つ」の科学的な根拠とは
次に「心身.如」という考え方の根拠を、腸と脳の関係から考えてみましよう。
胃や小腸・大腸などの消化管には、縦に収縮する縦走筋と、横に収縮する輪走筋があります。
この2つの筋肉一、平滑筋)が、それぞれの動きによって消化管内の内容物を運んでいます一これを蠕動といいます一。
この蠕動を調節するために、脳から独立した2つの神経系があります。
消化管の粘膜と筋の間に挟まれるマイスナー神経叢とアウエルバッハ神経叢です。
この2つからなる神経ネットワークにより、蠕動だけでなく、免疫やホルモン分泌なども自動的に調節されているのです。
小さな脳、第二の脳
通常、心臓や肝臓などの内臓機能は、脳や脊髄などの中枢から、交感神経と副交感神経という2つの自律神経によって直接調節されています。
しかし消化管では、まず2つの神経叢によって調節され、さらに自律神経によっても調節されるという、.一重支配を受けているのです。
消化管の神経細胞一ニューロン)の数は脊髄神経にも匹敵し、脳にケ在する神経伝達物質のほとんどは消化管にも存在するといわれます。
そのため、消化管は「小さな脳」といわれてきました。
また、最近ではガーションにより書かれた『第一の脳』という本で、腸は脳とは別の単独の調節能力を持つ「第二の脳」である、という内容が注口を集めましたが、実は、腸は生命を維持するために最も原始的で重要な内臓(第一の脳)なのです。
動物の共通先祖、腔腸動物とは
およそ5億年の昔に登場した、動物の共通先祖である腔腸動物。
この動物にあるのは、肛門を兼ねたHと、食物を吸収する胃、それを調節する神経のみです。
この神経が集まって神経叢をつくり、その一部が特化して脊髄に進化し、さらにその一部が脳になったと考えられています。
つまり、脳や脊髄より、消化管の神経叢のほうが古くから存在している第一の脳だったのです。
脳は発生の時点から消化管などの内臓と.体化しており、互いに関連して働く相関関係にあります(脳腸相関)。
これが、「心身一如」の科学的な根拠でもあるのです。
漢方薬は腸で免疫力を強くする
腸の粘膜免疫」によって漢方薬の免疫増強作用が明らかに。
腸には免疫力がある
腸の長さは口から肛門までおよそ7m、腸管の粘膜の表.面積は400、mといわれます。
この表面積は、皮膚の炎面積の200倍以Lにもなります.これまで場は、単に食物から栄養や水分を吸収するための臓器と考えられていました。
しかし現在では、腸は皮膚と同じように、外界からの刺激に対するバリアー機能を持つ、最大の免疫臓器であることが分かってきました。
自然免疫と獲得免疫
人間を細菌やウイルスなどの外敵から守る免疫には、n然免疫と獲得免疫があります。
自然免疫は、異物を食べて処理する負食細胞(マクロファージ一や、がんなどの異常細胞を処理するNK細胞に加え、これらの働きを補助する補体などからなります。
.方、獲得免疫は主に胸腺由来のTリンパ球による免疫グロブリン(G・M・E・A)などの抗体産生や、抗.原受容体が関与する抗.原特異的免疫のことで、蛋白質を抗原とします。
これまで免疫といえば、この獲得免疫を指していました。ところが最近、月然免疫の中でも特に腸管における粘膜免疫が重要な働きをしていることが分かってきたのです。
粘膜免疫に働く漢方薬
腸管の粘膜Lには様々な物質が流れてきます。
蛋白質以外の、嘩素一トキシン一、多糖体、脂質などの異物はM細胞により粘膜内に輸送されます(左図参照)。
これらの異物に粘膜内の樹状細胞が反応し、その情報は腸管LL皮細胞間リンパ球に伝えられます.腸管L皮細胞間リンパ球は、全身を巡ってから分泌型の免疫グロブリンAを分泌し、腸管粘膜における感染を防いでいるのです。
漢方薬には、トキシン、アルカロイド、多糖体、糖脂質、リン脂質、、、、ネラルなどが含まれています。
特徴的なのは、漢方薬は通常煎じるため、含まれる蛋白質が加熱により凝固し、活性が失われることです。
一部の漢〃薬にある免疫能を活性化する働きは、これまで蛋白質を抗原とする痩得免役ではうまく説明できませんでした。
しかし、この粘膜免疫の働きが解明されてきたことで、蛋白ではなく、トキシンや多糖体などが反応する漢方薬の免疫増強作用が明らかになってきたのです。